東京高等裁判所 平成8年(う)1748号 判決
被告人 染野治雄
〔抄 録〕
控訴趣意に対する判断に先立ち、職権で調査すると、原判決には、次のような法令の適用の誤りがある。すなわち、原判決は、罪となるべき事実第四の三として、被告人は、平成八年六月一一日午後七時四〇分ころ、茨城県岩井市所在のホテル「A」地下駐車場において、「法定の除外事由がないのに、刃渡り約一九・八センチメートル…及び刃渡り約一五・五センチメートル…の手製あいくち各一振りを所持し」たとの事実を認定し、法令の適用の項で、罰条として、右事実に、包括して銃砲刀剣類所持等取締法三条一項、三一条の三第一項を適用している。しかしながら、同法上、右三一条の三第一項は、同法三条の四にいう「けん銃等」を所持した場合に適用されるべき罰条であって、「けん銃等」に当たらないあいくちの所持に適用されるべき罰条は、同法三一条の一六第一項一号であるから、この点、原判決には法令の適用に誤りがあるというほかない(なお、検察官作成の同年九月六日付け「訴因及び罪名・罰条変更請求書」に基づき、訴因が変更された同年七月二日付け起訴状記載の公訴事実中、あいくち二振の所持の点に適用すべき罰条として、同請求書には、同法三一条の三第一項が掲げられているが、当審において、検察官の請求により、右罰条が、同法三一条の一六第一項一号に変更された。)。ところで、原判示第四の所為については、三のあいくちの所持と、一の覚せい剤の営利目的所持、二の麻薬所持及び四の折りたたみ式ナイフの不法携帯との間に、一個の行為で四個の罪名に触れるという関係があるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、以上を一罪として最も重い一の覚せい剤の営利目的所持の罪(覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項)の刑で処断することとなる。したがって、原判示第四の所為中、三のあいくちの所持に適用される罰条は、直ちに処断刑の基礎となる刑ではない。しかしながら、観念的競合の関係にある各点に適用される各罰条の法定刑は、それ自体が処断刑にならない場合でも、刑の量定に当たり、十分に考慮しなければならないことであるから、とりわけ、本件のように、原判決が誤って適用した、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第一項の法定刑が一年以上一〇年以下の懲役であるのに対し、正しい適用法条である同法三一条の一六第一項一号の法定刑が三年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金であって、その間に著しい軽重の差があるようなときには、右誤りが、刑の量定に大きな影響を及ぼすものといわなければならない。すなわち、原判決には、原判示第四の事実に関し、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがあるというほかない。
(松本時夫 岡田雄一 服部悟)